富山の厳しい冬が生んだ奇跡の発酵食、「かぶら寿し」。その白くなめらかなカブの肌に、鮮やかなピンク色の魚身が映える姿は、まさに冬の芸術品と呼ぶにふさわしい美しさです。しかし、その誕生の背景には、先人たちの生きるための知恵と、加賀藩政下における複雑な事情が絡み合っていることをご存じでしょうか。
かぶら寿しの起源については諸説ありますが、最も広く語り継がれているのは江戸時代、加賀藩主前田家への献上品として生まれたという説です。当時、米は年貢として納めるべき貴重な財源であり、庶民が腹一杯に食べることは許されませんでした。また、贅沢禁止令によって豪華な食事も制限されていた時代です。そんな中、人々はカブという安価な野菜で高価なブリを隠すように挟み込み、さらに米麹で漬け込むことで、「これは漬物である」という体裁を保ちながら、実は豪華な魚料理を楽しんだと言われています 。この「隠れた贅沢」という精神性は、派手さを嫌い実質を重んじる富山県民の気質、いわゆる「越中人の土徳」にも通じるものがあります。
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また、保存食としての機能性も見逃せません。冷蔵技術のなかった時代、冬の日本海で獲れた大量の魚をいかにして春まで保存するかは、死活問題でした。塩漬けにするだけでは塩辛すぎて食べる量が限られますが、麹を使って発酵させることで、塩分がまろやかになり、保存性が高まると同時に、米の糖化作用によって貴重なカロリー源ともなりました。富山の湿潤で寒冷な気候は、麹菌の繁殖と低温発酵に最適な環境であり、まさにこの土地の風土が育てた味と言えるでしょう。
興味深いのは、かぶら寿しが単なる家庭料理の枠を超え、地域コミュニティの絆を深める「贈答文化」の象徴となっている点です。富山では年末になると、親戚や世話になった知人にかぶら寿しを贈る習慣が今も根強く残っています 。かつては各家庭で漬け込まれ、「うちの味が一番」と自慢し合ったものでした。現在では自家製で作る家庭は減りましたが、その分、プロの職人たちが技を競い合い、より洗練された味わいへと進化を遂げています。歴史を知ることで、一切れのかぶら寿しに込められた数百年分の想いを感じ取ることができるはずです。
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「かぶら寿し」と聞いて、あなたはカブの間に何が挟まっているのを想像しますか?おそらく多くの人が「ブリ」と答えるでしょう。しかし、富山県内においてその常識は必ずしも通用しません。実は、富山県西部(呉西地区)、特に南砺市を中心とした山間部では、伝統的に「サバ」を使用するのが一般的であることをご存じでしたか 。
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この「ブリ対サバ」の分布図は、富山の地理と交易の歴史を映し出す鏡のようなものです。金沢に近い平野部や沿岸部では、加賀藩の城下町文化の影響を強く受け、高級魚であるブリを使用する「金沢流」が主流です。一方、山深い五箇山や南砺エリアでは、海からの距離があるため、より保存性の高い、あるいは内陸に入ってきやすかったサバや、時にはサケが好んで使われてきました 。
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南砺市の老舗「ヨネダ」では、現在でもブリ入りとサバ入りの両方を製造・販売しています。食べ比べてみると、その違いは歴然です。ブリ入りは、脂の乗った濃厚な旨味が特徴で、麹の甘みと合わさるとトロリとした食感になり、まさに「ハレの日」の御馳走といった風格があります。対してサバ入りは、身が引き締まっており、噛みしめるほどに青魚特有の力強い旨味が染み出してきます。サバの酸味とカブの甘みのコントラストが鮮やかで、より野趣あふれる、酒飲み好みの味わいと言えるでしょう。
さらに、富山県東部(呉東地区)の一部では、新潟県に近いこともあり、サケを使用する文化も見られます。こちらは「サケの飯寿司(いずし)」文化圏とのグラデーションを感じさせます。ピンク色のサケが白いカブに挟まれた姿は、ブリとはまた違った華やかさがあり、紅白の縁起物として正月料理に彩りを添えます。
このように、一口に「富山のかぶら寿し」と言っても、地域によって中身も味わいも千差万別です。「私は絶対にブリ派!」という方も、一度だまされたと思って、南砺流の「サバかぶら寿し」を試してみてはいかがでしょうか。その素朴で力強い味わいに、富山の食文化の奥深さを再発見するかもしれません。通販サイトなどでは「サバ入り」を指定して購入できる店舗も増えているので、食べ比べセットを取り寄せて、家族で「利きかぶら寿し」を楽しむのも一興です。
富山県内には星の数ほどのかぶら寿しメーカーが存在しますが、今回はガイドブックに載っているような有名店だけでなく、地元民がこっそり通う「隠れた名店」にもスポットを当ててご紹介します。
まず、王道として外せないのが南砺市の「ヨネダ」です。ここのかぶら寿しは、なんといってもカブの品質が違います。地元・南砺市の契約農家で栽培された専用品種「百万石かぶ」を使用しており、その肉質の緻密さと甘みは他とは一線を画します 。特に人気なのが「福丸」という商品で、丸ごとのカブにたっぷりとブリを挟んだその姿は圧巻。贈答用として圧倒的な信頼を得ています。麹の熟成具合も絶妙で、誰が食べても美味しいと感じる黄金比のバランスを保っています。
参考)トップページ|心づくし 味づくし よね田
次に紹介したいのが、富山駅周辺で手に入りやすい「源(みなもと)」や「寿々屋(すずや)」です。「源」はますのすしで有名ですが、かぶら寿しも冬季限定で販売しており、クセが少なく食べやすいのが特徴です。初めて食べる方や、県外へのお土産には最適の選択肢と言えるでしょう。「寿々屋」は海産物専門店ならではの目利きで選ばれたブリの質が高く、脂のノリが良いものを好む方におすすめです 。
参考)富山のぶりかぶら寿しは寿々屋で
そして、今回最もおすすめしたい「隠れた名店」が、高岡市にある「四日市商店」です。ここは大手メーカーではなく、いわゆる「まちの魚屋さん」ですが、冬になると自家製のかぶら寿しを販売します。ここの魅力は、なんといっても「圧倒的なコストパフォーマンス」と「手作りの温かみ」です。高級贈答品として数千円するのが当たり前のかぶら寿し界において、四日市商店のものはリーズナブルで、しかも味が抜群に良いと地元住民の間で評判です 。麹の甘みが強すぎず、素材の味がストレートに伝わってくる、毎日食べても飽きない「普段着のご馳走」です。ただし、生産量は限られているため、見つけたら即買いが鉄則です。
参考)『北陸の冬の名物「かぶらすし」の隠れた穴場店。』by そとく…
また、スーパーマーケット「アルビス」や「大阪屋ショップ」の惣菜コーナーも侮れません。ここでは、地元の小規模な漬物店や惣菜店が作った、ビニール袋入りの簡易包装のかぶら寿しが並んでいます。これらは「きりこ」や「切り落とし」として売られていることもあり、形は不揃いですが味は本物。値段も手頃なので、自分用のおやつや晩酌のアテとして購入するには最高です。高級店の上品な味も良いですが、地元のスーパーで売られている、少し塩気の効いたパンチのある田舎風の味こそが、実は富山県民にとってのソウルフードなのかもしれません。
「お店の味もいいけれど、自分好みの甘さや塩加減で食べてみたい」。そんな料理好きな方のために、家庭で挑戦できる本格的なかぶら寿しの作り方を解説します。発酵食品と聞くとハードルが高そうですが、基本の工程は「切る」「塩漬け」「本漬け」の3ステップだけ。時間はかかりますが、作業自体は驚くほどシンプルです。
材料(作りやすい分量)
作り方
カブは皮を厚めに剥きます。皮の近くは繊維が硬いので、思い切って厚く剥くのが口当たりを良くするコツです。縦半分に切り、さらに厚さ2~3cmの半月切りにします。ここからが職人技の見せ所、カブの中央に切り込みを入れます。下まで切り離さず、2/3程度の深さまで包丁を入れる「松の葉切り」にします。
ボウルにカブと塩を入れ、全体に馴染ませたら漬物容器に移し、カブの2倍程度の重さの重石を乗せて2~3日置きます。しっかりと水分を抜くことで、保存性が高まり、ポリポリとした食感が生まれます 。
ブリは5mm~7mm程度の厚さにそぎ切りにします。全体に軽く塩(分量外)を振り、ザルに並べて1時間ほど置きます。表面に水分が出てきたら、さっと酢(分量外)で洗います。この「酢洗い」が重要で、魚の生臭さを消し、殺菌効果も期待できます。キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取っておきましょう。
炊きたてのご飯に、手でほぐした米麹を混ぜ込みます。60℃くらいのお湯をひたひたになるまで注ぎ、炊飯器の保温機能を使って8時間ほど発酵させます。栗のような甘い香りがして、ドロリとした甘酒状になれば完成です。ここに彩りのニンジン、ユズ、唐辛子を混ぜ込みます。
水気を切ったカブの切り込みに、ブリを一枚ずつ丁寧に挟み込みます。漬物容器の底に麹床を薄く敷き、その上にブリを挟んだカブを並べます。さらに上から麹床を被せ、隙間がないように敷き詰めます。これを段々に重ねていきます。最後に一番上にたっぷりと麹を乗せ、ラップをして軽い重石(カブの重量の半分程度)を乗せます。
冷暗所(5℃~10℃)で5日~1週間ほど熟成させます。富山の冬の廊下や玄関先がベストポジションです。日が経つにつれて麹がカブに馴染み、味がまろやかになっていきます。3日目くらいから食べられますが、1週間ほど置くと乳酸発酵が進み、酸味と旨味のバランスが最高潮に達します。
失敗しないためのポイント
最大の敵は「温度」です。暖房の効いた部屋に置くと、過剰発酵して酸っぱくなりすぎたり、腐敗の原因になります。逆に寒すぎると発酵が進みません。温度管理が難しい場合は、冷蔵庫の野菜室でゆっくり(10日~2週間)発酵させるのが安全です。
手作りのかぶら寿しは、市販品のような保存料が入っていないため、完成後は早めに食べ切る必要がありますが、そのフレッシュな味わいは格別です。「自分の家の味」が出来上がった時の感動は、何物にも代えがたいものがあります。
「かぶら寿しは日本酒でしょ?」と思っているあなた、その固定観念を一度捨ててみませんか?実はかぶら寿しは、ワイン、特に白ワインとの相性が抜群に良い「和製マリネ」なのです。
かぶら寿しの味の構成要素を分解してみましょう。「麹の甘み」「乳酸発酵の酸味」「ブリの脂」「カブの食感」。これは、西洋料理における「魚のカルパッチョ」や「エスカベッシュ」に非常に近い要素を持っています。特に麹の持つ独特のフレーバーは、チーズのような発酵食品のニュアンスを含んでおり、これがワインと絶妙にマッチするのです 。
参考)Instagram
おすすめのペアリング:
ちょい足しアレンジレシピ:
そのまま食べるのに飽きたら、少しだけ手を加えて「洋風オードブル」に変身させてみましょう。
薄切りにしたかぶら寿しを皿に並べ、上質なエキストラバージンオリーブオイルを一回し。最後に粗挽きのブラックペッパーをガリガリと振るだけ。これだけで、驚くほどおしゃれな前菜になります。日本酒よりもワインが進む味に激変します。
バーナーやトースターで表面をさっと炙ります。麹が焦げて香ばしい香りが立ち上り、半生になったブリの脂が溶け出してジューシーになります。古くなって酸味が出てしまったかぶら寿しの救済レシピとしても優秀です 。
かぶら寿しとクリームチーズをサイコロ状にカットして和えます。発酵食品同士の組み合わせは鉄板です。濃厚なチーズのコクが加わり、重めの白ワインや、軽めの赤ワインにも合うようになります。
かぶら寿しは、伝統料理でありながら、現代の食卓にも柔軟に適応するポテンシャルを秘めています。「こうやって食べなければならない」というルールはありません。自由な発想でアレンジを楽しんでこそ、その真価がわかるというものです。今年の冬は、ワイングラスを片手に、富山の伝統をモダンに楽しんでみてはいかがでしょうか。

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